酒田五法:ローソク足の並びから転換を読む
- 教科書どおりに定義すると、赤三兵は11回、黒三兵は9回、三空踏み上げは15回、三空叩き込みは9回しか出ない
- 始値の条件を外した赤三兵(159回)の20日後リターンは平均+0.42%で、すべての日の+0.75%を下回った
- 「赤三兵で買い20日保有」は年率2.4%・取引81回。保有16日では年率−0.0%に落ちる
三兵と三空を数式にする
酒田五法は、ローソク足の並び方を「三山(さんざん)・三川(さんせん)・三空(さんくう)・三兵(さんぺい)・三法(さんぽう)」の5つの型にまとめた分析法です。今回はこのうち、形がはっきりしていて機械的に定義しやすい三兵と三空を取り上げます。
赤三兵は、陽線(終値が始値より高い足)が3本続き、終値が毎日上がっていく並びです。教科書では「2本目・3本目の始値が、前の足の実体(始値と終値の間)の中にある」ことも条件になります。下げの後に出れば上昇の始まりとされ、買いのサインです。その逆が黒三兵で、売りのサインとされます。
三空は、窓(前日の値幅と重ならない値動き)が3回続く並びです。上に3回窓を開けるのが三空踏み上げ、下に3回開けるのが三空叩き込みです。勢いが行き過ぎたと考え、踏み上げは売り、叩き込みは買いのサインとされます。
教科書版:2・3本目の始値が前日の実体内
三空踏み上げ:3日続けて 安値>前日高値
三空叩き込み:3日続けて 高値<前日安値
パターンが4本・5本と続くと、毎日「成立」してしまいます。そこで、成立した日のうち前日は成立していなかった日だけを1回と数えました(これを「初出」と呼びます)。リターンは、パターンが完成した日の終値から測ります。
日経平均では「実体の中で寄り付く」日が少ない
数えてみて最初にわかったのは、教科書どおりの三兵がめったに出ないことです。始値が前日の実体の中に入った日は、全4,760営業日の25.6%しかありません。日経平均は前夜の米国市場の動きを受けて寄り付くため、窓を開けることが多いのです。窓を開けて上昇した日(安値>前日高値)は714日、窓を開けて下落した日は568日ありました。
「三空は珍しい大相場のサイン」と思われがちですが、日経平均では窓そのものは珍しくありません。それでも3日続くのは19年半で15回(上)と9回(下)だけです。9回や15回の平均は、1回の大きな動きで簡単にひっくり返ります。
実際の日経平均で見てみる
直近500営業日では、始値の条件を外した赤三兵が20回、黒三兵が13回出ました。教科書どおりの三空は、踏み上げが2回(2025年6月30日・8月13日)、叩き込みが1回(2025年3月31日)です。
目を引くのは2025年4月の急落です。4月3日(34,736円)・4日(33,780円)・7日(31,136円)と陰線が3本続き、終値が毎日下がって黒三兵になりました。売りのサインのはずですが、20営業日後の終値は+18.60%でした。2025年9月30日(44,933円)の黒三兵も、20日後は+14.19%です。
反対に、2025年10月31日(52,411円)の赤三兵は20日後に−5.93%、2026年2月10日(57,650円)の赤三兵は−5.55%でした。直近では2026年9月25日(66,364円)に赤三兵が出ています。この回は、まだ20営業日がたっていません。
検証①:パターンの後、どう動いたか
4つの型について、教科書どおりの版と、始値の条件を外した三兵の版の出現回数、5日後・20日後の平均リターンと上昇した割合を数えました。期間は2007年4月13日〜2026年10月2日です。
| パターン | 初出回数 | 5日後 平均 | 5日後 上昇率 | 20日後 平均 | 20日後 上昇率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 赤三兵(教科書どおり) | 11 | +0.24% | 45.5% | +2.22% | 63.6% |
| 黒三兵(教科書どおり) | 9 | −0.74% | 44.4% | +1.36% | 44.4% |
| 赤三兵(始値の条件なし) | 159 | +0.09% | 56.0% | +0.42% | 55.1% |
| 黒三兵(始値の条件なし) | 135 | +1.08% | 61.5% | +1.37% | 57.0% |
| 三空踏み上げ | 15 | +0.31% | 53.3% | +0.73% | 73.3% |
| 三空叩き込み | 9 | −1.32% | 44.4% | −0.28% | 44.4% |
| すべての日 | 4,760 | +0.19% | 55.3% | +0.75% | 58.0% |
教科書どおりの赤三兵は20日後+2.22%と良く見えますが、11回だけです。内訳を見ると、2009年12月2日の+10.88%のような大勝ちがある一方、2008年12月11日は−8.00%でした。1回の結果で平均が大きく動く数では、何も言えません。三空も同じで、売りのはずの踏み上げは20日後+0.73%・上昇率73.3%、買いのはずの叩き込みは−0.28%と、どちらも伝統的な見方と逆でしたが、件数は15回と9回です。
件数が100回を超えるのは、始値の条件を外した三兵だけです。こちらでは買いサインの赤三兵が+0.42%で全日平均を下回り、売りサインの黒三兵が+1.37%で上回りました。5日後で見ると差はさらに大きく、赤三兵+0.09%、黒三兵+1.08%です。#011 平均足で見た「日足の陽線の後より、陰線の後の方がよく上がる」傾向と同じ向きです。
ただし、この差も確かではありません。20日後の平均の標準誤差(平均値がどれくらいぶれるかの目安)は、赤三兵±0.49%、黒三兵±0.58%です。赤三兵と全日平均の差(−0.33ポイント)は、誤差の範囲に収まります。前半・後半に分けると、赤三兵の20日後は前半−0.58%、後半+1.37%と、符号まで変わりました。
検証②:赤三兵で買い、20日保有
ルール:赤三兵(件数を確保するため、始値の条件を外した版)が完成した日の終値で買い、20営業日後の終値で売る。保有中に次の赤三兵が出たら、そこから20日に延長します。感度は保有16日・24日です。比較として、黒三兵で買う逆張り版と、三空2種類も同じルールで試しました。条件は共通の検証ルールのとおりです。
| 戦略 | 最終資産 | 年率 | 最大下落率 | 取引 | 勝率 | PF | 保有率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 買い持ち | 3.93倍 | 7.3% | −61.4% | — | — | — | 100% |
| 赤三兵→20日保有 | 1.58倍 | 2.4% | −50.3% | 81 | 54% | 1.35 | 53% |
| 赤三兵→16日保有 | 1.00倍 | −0.0% | −58.3% | 100 | 50% | 1.09 | 45% |
| 赤三兵→24日保有 | 1.68倍 | 2.7% | −58.4% | 71 | 51% | 1.40 | 59% |
| 黒三兵→20日保有(逆張り) | 2.46倍 | 4.8% | −43.0% | 75 | 61% | 1.68 | 47% |
| 黒三兵→16日保有 | 2.36倍 | 4.5% | −40.5% | 89 | 57% | 1.58 | 40% |
| 黒三兵→24日保有 | 3.23倍 | 6.2% | −41.1% | 70 | 67% | 1.87 | 53% |
| 三空踏み上げ→20日保有 | 1.06倍 | 0.3% | −17.5% | 15 | 73% | 1.36 | 6% |
| 三空叩き込み→20日保有 | 0.94倍 | −0.3% | −29.5% | 9 | 44% | 0.79 | 4% |
赤三兵は159回出ていますが、保有中に次の赤三兵が出ると延長されるため、取引は81回にまとまりました。平均保有は31.1日、1回あたりの平均は+0.84%です。年率2.4%は買い持ち7.3%の3分の1ほどで、最大下落率−50.3%も大きく、相場の下げをほとんど避けられていません。
さらに問題なのは、保有日数への敏感さです。20日を16日に縮めると年率−0.0%、PF1.09まで落ちます。24日に延ばすと2.7%です。保有日数を少し変えただけで成績が大きく変わるのは、パターンそのものの力ではなく、たまたま当たった数回の大きな上昇に結果が左右されているためと考えられます。前半(〜2016年9月)の年率は−3.4%、後半は8.2%で、後半の上昇相場に助けられた形です。
黒三兵で買う方が良かったが、後から選んだ結果
黒三兵で買う逆張り版は、年率4.8%・最大下落率−43.0%・PF1.68と、赤三兵を上回りました。保有16日・24日でも年率4.5%・6.2%とプラスです。ただし取引は75回と少なく、前半の年率は−0.3%でした。また、この版は「結果を見てから良かった方を選んだ」ものです。20日後リターンの差(全日平均より+0.62ポイント)も、標準誤差±0.58%と同じくらいの大きさしかありません。
読み解き
- 教科書どおりの三兵・三空は、検証できるほど出ない。19年半で赤三兵11回、黒三兵9回、三空踏み上げ15回、三空叩き込み9回。日経平均は窓を開けて寄り付くことが多く、「前日の実体の中で寄り付く」条件を満たす日が25.6%しかない。
- 件数を増やすと、伝統的な見方とは逆に出た。始値の条件を外した赤三兵の20日後は+0.42%で全日平均+0.75%を下回り、黒三兵は+1.37%で上回った。ただし差は標準誤差と同程度で、偶然と区別できない。
- 赤三兵で買う売買ルールは、保有日数に振り回される。20日保有で年率2.4%・PF1.35だが、16日保有では年率−0.0%。取引も81回にとどまる。
成績のまとめ(赤三兵→20日保有)
PF1.35・最大下落率−50.3%だが、取引は81回と少なく、保有16日では年率−0.02%とマイナスに転じた。年率2.4%は買い持ち7.3%を大きく下回る。教科書どおりの三兵・三空は件数が9〜15回しかなく、売買ルールとして評価する以前の段階にある。逆張りの黒三兵→20日保有は年率4.8%・PF1.68と数字は良いが、取引は75回で、結果を見てから選んだ版であることを割り引く必要がある。
自分で試す(TradingView)
//@version=6
indicator("酒田五法 三兵・三空", overlay = true)
strict = input.bool(false, "三兵:始値が前日の実体内の条件を使う")
bodyLo = math.min(open, close)
bodyHi = math.max(open, close)
inBody = open >= bodyLo[1] and open <= bodyHi[1]
up1 = close > open and close > close[1]
dn1 = close < open and close < close[1]
aka = up1 and up1[1] and up1[2] and (not strict or (inBody and inBody[1]))
kuro = dn1 and dn1[1] and dn1[2] and (not strict or (inBody and inBody[1]))
gu = low > high[1]
gd = high < low[1]
fumiage = gu and gu[1] and gu[2] // 三空踏み上げ
tatakikomi = gd and gd[1] and gd[2] // 三空叩き込み
// 連続して成立した場合は最初の日だけ表示
plotshape(aka and not aka[1], "赤三兵", shape.triangleup, location.belowbar, color.green, size = size.small)
plotshape(kuro and not kuro[1], "黒三兵", shape.triangledown, location.abovebar, color.red, size = size.small)
plotshape(fumiage and not fumiage[1], "三空踏み上げ", shape.labeldown, location.abovebar, color.orange, text = "三空↑")
plotshape(tatakikomi and not tatakikomi[1], "三空叩き込み", shape.labelup, location.belowbar, color.teal, text = "三空↓")

