ケルトナーチャネル:ATRの帯で値動きの行き過ぎとブレイクを見る
- ケルトナーの上限(EMA20+2×ATR10)は、ボリンジャー+2σより狭く、終値が超えた日は16.5%(ボリンジャーは6.1%)
- 「上限超えで買い・中心線割れで売り」は年率3.2%・最大下落率−23.3%・PF1.73。ボリンジャー順張り(年率2.9%)とほぼ同じ
- 19年で取引は76回と少なめ。倍率を1.5にすると年率1.3%に落ちる「崖」もある
帯の広さを「値幅」で決める
ケルトナーチャネルは、1960年にチェスター・ケルトナーが著書で紹介した帯の指標です。現在よく使われるのは、中心線を指数移動平均(EMA)、帯の幅をATR(アベレージ・トゥルー・レンジ、1日の値幅の平均。#008)で決める形です。TradingViewの標準設定も、EMA20とATR10の2倍です。
(参考)ボリンジャー:中心線 = 20日移動平均 / ±2σ = 中心線 ± 2 × 20日間の終値の標準偏差
違いは帯の幅の物差しです。σ(標準偏差)は「20日間の終値が平均からどれだけ散らばっているか」、ATRは「1日の中でどれだけ動いたか」を測ります。同じ「値動きの大きさ」でも、測っているものが違います。
Aのように少しずつ一方向に上がると、20日前の安い終値と直近の高い終値が平均から離れるため、σが大きくなります。ところが1日ごとの値幅は小さいので、ATRは小さいまま。じわじわ続く上昇では、ケルトナーの上限の方が先に破られるわけです。逆にBのように上下するだけなら、ATRが大きくσは小さくなります。
実データでも「トレンドの日」に差が開く
約19年分(2007年4月〜)の日経平均で比べると、片側の帯の幅は終値に対してケルトナーが平均3.24%、ボリンジャーが平均4.39%。σ(20)÷ATR(10)の中央値は1.24で、ふだんはボリンジャーの方が広めです。2つの幅の相関は0.79と高く、おおむね一緒に広がり縮みします。
| 20日間の騰落の大きさ | σ÷ATR(平均) | ケルトナー上限超え | ボリンジャー上限超え |
|---|---|---|---|
| 小さい1/3 | 1.04 | 1.6% | 1.5% |
| 中間の1/3 | 1.28 | 13.3% | 7.3% |
| 大きい1/3 | 1.74 | 34.6% | 9.5% |
| 全期間 | — | 16.5% | 6.1% |
20日で大きく動いた局面では、σがATRの1.74倍に膨らみます。そのときケルトナー上限を超えた日は34.6%、ボリンジャー上限は9.5%にとどまります。動きの小さい局面では両者の差はほぼありません。終値が上限を超えた785日のうち、544日は「ケルトナーだけ」を超えた日でした。
「ケルトナーは帯が狭いから、ボリンジャーより売買が増える」とは限りません。上限を超える日は2.7倍ありますが、その多くはすでに上昇が続いている最中で、買いのシグナルとしては重複します。実際の取引回数は76回で、ボリンジャー順張りの79回とほぼ同じでした。
実際の日経平均で見てみる
2025年4月の急落では、片側の幅がボリンジャーで最大13.06%(4月9日)、ケルトナーで最大8.44%(4月11日)まで広がりました。σは「20日間の散らばり」なので、急落の数日で一気に跳ね上がります。2024年8月5日も同じで、終値31,458円に対し、ケルトナー下限は35,706円、ボリンジャー下限は34,488円。この日のATR(10)は1,293円、σ(20)は2,397円でした。
直近500営業日で、主ルールは21回売買しました。たとえば2025年9月8日(43,644円)に上限超えで買い、11月18日(48,703円)にEMA20割れで売っています。2026年9月はずっと現金で、10月1日に終値68,956円が上限(68,364円)を超えて買いのシグナル。10月2日の終値68,309円は上限(68,511円)を下回りましたが、EMA20(65,976円)の上なので保有が続いています。同じ日にボリンジャー順張りも買いに入っていました。
検証:上限超えで買い、中心線割れで売り
ルール:終値がケルトナー上限(EMA20+2×ATR10)を上回ったら買い、EMA20を下回ったら売り。比較として#004のボリンジャー順張り(+2σ超えで買い、20日線割れで売り)、下限まで割れるのを待って売る版、200日線の上でだけ買う版も試しました。条件は共通の検証ルールのとおりです。
| 戦略 | 最終資産 | 年率 | 最大下落率 | 取引 | 勝率 | PF | 保有率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 買い持ち | 3.93倍 | 7.3% | −61.4% | — | — | — | 100% |
| ケルトナー 上限→EMA20割れ | 1.84倍 | 3.2% | −23.3% | 76 | 41% | 1.73 | 31% |
| (#004)ボリンジャー +2σ→20日線割れ | 1.73倍 | 2.9% | −21.0% | 79 | 46% | 1.62 | 29% |
| ケルトナー 上限→下限割れ | 2.36倍 | 4.5% | −26.2% | 41 | 37% | 2.07 | 57% |
| ケルトナー+200日線の上だけ | 1.96倍 | 3.5% | −17.1% | 68 | 41% | 2.01 | 28% |
主ルールは年率3.2%、最大下落率−23.3%、PF1.73。ボリンジャー順張りの年率2.9%・−21.0%・PF1.62と並べると、物差しを替えても結果はほとんど変わらないことがわかります。保有していた日を比べても、両方が保有していた日が1,227日、ケルトナーだけが249日、ボリンジャーだけが164日。全期間の91.3%の日で「持つか、現金か」の判断が一致していました。
平均保有は19.4日、勝率41%。1回あたりの平均は+0.97%で、勝ちの平均+5.65%に対し負けの平均は−2.25%です。最大の勝ちは+32.38%で、上位5回の合計(+82.85%)が全76回の合計(+73.70%)を上回ります。少数の大きな上昇に乗ることで成り立つ、典型的な順張りの形です。コストをゼロにすると年率4.00%(PF1.96)でした。
下限割れまで待つ版は年率4.5%と伸びましたが、平均保有66.0日・取引41回と、ほとんど「長く持つ」戦略に変わります。200日線の上でだけ買う版は最大下落率−17.1%と最も小さいものの、取引は68回に減りました。
検証②:倍率を変えると
「2倍」という倍率は、どこまで結果を左右するのか。1.0倍から3.0倍まで変えて、同じルールで売買しました。
| ATRの倍率 | 年率 | 最大下落率 | 取引 | PF | 前半 | 後半 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1.0 | 1.2% | −30.3% | 162 | 1.17 | 0.0% | 2.4% |
| 1.5 | 1.3% | −41.7% | 115 | 1.23 | 0.5% | 2.0% |
| 1.6(−20%) | 2.8% | −25.9% | 100 | 1.47 | 1.2% | 4.3% |
| 1.75 | 4.0% | −22.1% | 86 | 1.82 | 2.6% | 5.5% |
| 2.0(主ルール) | 3.2% | −23.3% | 76 | 1.73 | 2.6% | 3.8% |
| 2.4(+20%) | 3.3% | −19.8% | 58 | 2.00 | 4.7% | 1.9% |
| 2.5 | 3.6% | −17.0% | 54 | 2.23 | 4.8% | 2.4% |
| 3.0 | 2.0% | −20.3% | 36 | 1.82 | 3.0% | 1.1% |
倍率1.6〜2.5では年率2.8〜4.0%と安定していますが、1.5倍以下では急に崩れます。1.5倍は年率1.3%、最大下落率−41.7%。帯が狭すぎると、ちょっとした上げで買ってすぐEMA20割れで売る「だまし」が増えるためです。取引を100回以上に増やそうと倍率を下げると、ちょうどこの崖にぶつかります。
もう一つ、倍率を上げるほど後半(2016年10月〜)の成績が落ちる傾向があります。2.4倍では前半4.7%、後半1.9%。後半が前半の半分をわずかに下回る水準です。参考までに、中心線をEMA24にすると年率4.4%、ATRを14日にすると4.0%でした。ボリンジャーとの差(0.3ポイント)より、設定の違いによる差の方が大きいのです。
読み解き
- 物差しを替えても、順張りの成績はほぼ同じ。ケルトナーは年率3.2%・PF1.73、ボリンジャーは年率2.9%・PF1.62。91.3%の日で同じ保有判断をしており、違いは設定の誤差の範囲だった。
- ケルトナーの上限は「じわじわ上昇」に反応しやすい。20日で大きく動いた局面では、上限超えの日がケルトナー34.6%、ボリンジャー9.5%。ただし、すでに保有中のことが多く、取引回数は増えなかった。
- 倍率1.5以下には崖がある。1.6〜2.5倍では年率2.8〜4.0%だが、1.5倍で1.3%・最大下落率−41.7%に悪化する。取引回数を増やすために帯を狭める調整は危うい。
成績のまとめ(ケルトナー上限超えで買い・EMA20割れで売り)
最大下落率−23.3%は買い持ちの−61.4%より大きく抑えられ、倍率を±20%変えてもプラスを保った。ただし取引は19年で76回と少ない。#004のボリンジャー順張り(79回)と取引の少なさも成績もほぼ重なる。年率3.2%は買い持ち7.3%の半分以下。倍率1.5以下で成績が急に崩れる点、倍率を上げると後半が弱くなる点にも注意が必要。
2つの帯を重ねると、ボリンジャーがケルトナーの内側に収まる日が16.4%ありました。値動きが縮んだ状態の目安として、この重なりを使う方法もあります。バンドの縮みについては#015 スクイーズで検証しています。
自分で試す(TradingView)
//@version=6
indicator("ケルトナー 上限超え→EMA20割れ", overlay = true)
len = input.int(20, "EMAの期間")
alen = input.int(10, "ATRの期間")
mult = input.float(2.0, "ATRの倍率", step = 0.1)
mid = ta.ema(close, len)
rng = ta.atr(alen) // Wilder平滑のATR
up = mid + mult * rng
lo = mid - mult * rng
var bool inPos = false
buy = not inPos and close > up
sell = inPos and close < mid
if buy
inPos := true
else if sell
inPos := false
plot(mid, "EMA20", color = color.orange)
p1 = plot(up, "上限", color = color.blue)
p2 = plot(lo, "下限", color = color.blue)
fill(p1, p2, color = color.new(color.blue, 92))
plotshape(buy, "買い", shape.triangleup, location.belowbar, color.green, size = size.tiny)
plotshape(sell, "売り", shape.triangledown, location.abovebar, color.red, size = size.tiny)

