季節性・アノマリー:上がりやすい時期だけ持つ
- 11〜4月の月平均騰落率は+1.05%、5〜10月は+0.44%。差はあるが、統計的には偶然の範囲(t値0.83)
- 「11〜4月だけ保有」は年率5.1%・最大下落率−33.2%。買い持ち(7.3%、−61.4%)より伸びは小さいが、下落はほぼ半分
- 2016年10月以降の後半では、逆に5〜10月の方が年率9.8%と好成績だった
カレンダーで売買する「アノマリー」
アノマリーとは、理論ではうまく説明できないのに、経験的に繰り返し観察される株価の規則性のことです。「何月は上がりやすい」「何曜日は下がりやすい」といった季節性・曜日効果が代表例です。テクニカル指標と違って価格を一切使わず、日付だけで売買を決めるのが特徴です。
セル・イン・メイを売買ルールにすると、「10月末の終値で買い、4月末の終値で売る。5〜10月は現金で待つ」となります。売買は年に1往復だけです。ルールが単純な分、「区切りを1か月ずらしたら成績が崩れるのでは?」という疑問が出ます。そこで今回は、前倒しの10〜3月、後ろ倒しの12〜5月も同時に試します。
月別に見ると、何月が強いのか
まず、2007年5月〜2026年9月の233か月について、月ごとの平均騰落率(当月末の終値 ÷ 前月末の終値 − 1)を集計しました。青い棒が11〜4月、橙の棒が5〜10月です。
最も強いのは4月の+2.76%、次いで11月+2.08%、12月+1.52%。最も弱いのは8月の−0.91%で、上昇した年は20年中9年だけでした。ここまでは格言どおりに見えます。一方で、1月は−0.64%、3月は−0.19%とマイナスで、逆に5月は+1.47%、上昇した年の割合は70%と12か月で最も高い。「5月に売れ」の5月が、実は上がりやすい月だったのです。
6か月ずつまとめると、11〜4月の月平均は+1.05%、5〜10月は+0.44%。差は0.61ポイントあります。ただし、月ごとのばらつきに比べると差は小さく、2つの平均の差を検定したt値は0.83でした。目安の2に届かず、「偶然でも起こりうる差」の範囲です。
「過去19年の平均がプラスの月は、今年も上がる」は誤り。各月のデータは19〜20個しかなく、1年の大相場で平均が大きく動きます。実際、前半(〜2016年9月)と後半で平均の符号が一致したのは12か月中5か月だけでした。たとえば1月は前半−3.12%、後半+1.58%と正反対です。
曜日による差はあるか
もう一つの定番が曜日効果です。前日終値から当日終値までの騰落率を曜日別に4,760日分集計しました。
火曜と水曜が+0.076%で最も高く、金曜は−0.024%、月曜は+0.008%と低めでした。とはいえ、全日平均+0.040%との差は、最も離れた金曜でも1日あたり0.1ポイントに届きません。往復0.2%のコストを払うと、曜日を選んで売買しても差はほぼ消えます。しかも火曜は前半−0.041%、後半+0.186%と、時期によって大きく変わりました。曜日効果は、売買ルールにするには小さすぎます。
実際の日経平均で見てみる
直近2年は、格言にとって厳しい展開でした。2024年10月末〜2025年4月末の保有期間は39,081円から36,045円へ−7.77%。途中には2025年4月の急落があり、4月7日の終値は31,136円まで下げました。ところが売った直後の5〜10月は、36,045円から52,411円へ+45.40%と大きく上昇。この半年は19年間の5〜10月で最高の成績で、ルールは丸ごと見送りました。
次の2025年10月末〜2026年4月末は+13.11%(59,284円)と取れましたが、2026年も4月末から9月末までに+12.60%上昇しています。2026年10月2日時点のルールの状態は「現金」で、次の買いは10月末の終値です。
検証:11〜4月だけ保有する
ルール:10月の最終営業日の終値で買い、4月の最終営業日の終値で売る。5〜10月だけ保有する逆のルール、区切りを1か月ずらした2通りも比べました。条件は共通の検証ルールのとおりです。
| 戦略 | 最終資産 | 年率 | 最大下落率 | 取引 | 勝率 | PF | 保有率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 買い持ち | 3.93倍 | 7.3% | −61.4% | — | — | — | 100% |
| 11〜4月だけ保有 | 2.63倍 | 5.1% | −33.2% | 20 | 70% | 3.08 | 48% |
| 5〜10月だけ保有 | 1.38倍 | 1.7% | −59.2% | 19 | 63% | 1.54 | 52% |
| 10〜3月だけ保有(前倒し) | 1.85倍 | 3.2% | −55.1% | 19 | 63% | 1.92 | 48% |
| 12〜5月だけ保有(後ろ倒し) | 2.37倍 | 4.5% | −42.7% | 20 | 55% | 3.06 | 49% |
11〜4月保有は最終資産2.63倍、年率5.1%。買い持ちの7.3%には届きませんが、持っていたのは全期間の48%だけです。最大下落率は−33.2%で、買い持ちの−61.4%のほぼ半分でした。年率を最大下落率で割った「下落1あたりのリターン」は0.153で、買い持ちの0.119を上回ります。反対の5〜10月保有は年率1.7%、最大下落率−59.2%と、ほぼすべての面で見劣りしました。
差の大部分は「2008年の夏」
年ごとに「5〜10月(夏)」と「11月〜翌4月(冬)」を比べると、印象は変わります。冬が同じ年の夏を上回ったのは19年中10年だけ。ほぼ五分五分です。
19年平均では冬+6.57%、夏+2.45%と冬が大きく上回ります。ところが、2008年の夏(リーマン・ショックで−38.07%)を除くと、冬+6.77%、夏+4.71%まで差が縮まります。11〜4月保有の優位は、1回の暴落を避けたことに大きく頼っているのです。2012年の冬の+55.25%も、成績を押し上げた大きな1回でした。
さらに、後半(2016年10月〜)だけで見ると、5〜10月保有の年率は9.78%で、11〜4月保有の4.56%を逆転しています。月平均でも、後半は11〜4月+0.93%に対し5〜10月+1.68%でした。「夏は休む」が通用したのは、主に前半だったことになります。
読み解き
- 平均では格言どおりだが、差は偶然の範囲。11〜4月の月平均+1.05%は5〜10月の+0.44%を上回るが、t値は0.83。4月・11月が強く8月が弱い一方、5月は上昇した年が70%と最も多い。
- ルールとしての強みは「下落の小ささ」。年率5.1%は買い持ちに劣るが、最大下落率は−33.2%と半分程度。ただしその多くは2008年夏の暴落を避けたことによる。
- 近年は逆転している。後半は5〜10月保有の年率9.78%が11〜4月保有の4.56%を上回った。2025年の夏の+45.40%を丸ごと逃したのが象徴的。曜日効果はコスト以下で、売買には使えない。
成績のまとめ(11〜4月だけ保有)
PF3.08・最大下落率−33.2%(買い持ち−61.4%)で、区切りを1か月ずらしても年率3.2〜4.5%とプラスを保ち、後半も4.6%と崩れていない。ただし年1回の売買では19年で20回にしかならず、取引回数は構造的に少なくなる。成績の差が2008年夏の1回に大きく依存し、後半は5〜10月の方が強かった点も踏まえ、他市場での再確認が必要だ。感度は「±20%」の代わりに、6か月の区切りを±1か月ずらした2通りで確かめた。
自分で試す(TradingView)
//@version=6
strategy("Sell in May(11〜4月だけ保有)", overlay = true, process_orders_on_close = true,
commission_type = strategy.commission.percent, commission_value = 0.1)
startM = input.int(11, "保有を始める月", minval = 1, maxval = 12)
endM = input.int(4, "保有を終える月", minval = 1, maxval = 12)
inWin(m) => startM <= endM ? (m >= startM and m <= endM) : (m >= startM or m <= endM)
hold = inWin(month)
// 注:記事の検証は「月末の終値」で売買。ここでは月初の1日目の終値で売買するため1日ずれる
if hold and strategy.position_size == 0
strategy.entry("Long", strategy.long)
if not hold and strategy.position_size > 0
strategy.close("Long")
bgcolor(hold ? color.new(color.blue, 90) : na)

