エンベロープ:平均から一定率の帯で行き過ぎを測る
- 25日線の5%は、ふだん(中央値)は2.37σにあたるが、0.32σ〜14.65σまで大きく伸び縮みする
- 「−5%割れで買い・25日線で売り」は年率2.5%・PF1.73・取引45回。幅を10%に広げるとPF8.91だが取引は15回しかない
- 固定%の帯は、落ち着いた相場ではほぼ合図を出さない(買い4回)。σ基準のボリンジャーが空振りする時期を自然に避けていた
エンベロープは「移動平均を%でずらした線」
エンベロープ(Envelope、封筒・包みの意味)は、移動平均線を上下に一定の割合だけずらして引いた2本の線です。日本では25日線の±5%といった設定がよく使われます。計算はこれだけです。
(参考)ボリンジャー:中心線 ± 2 × 20日間の終値の標準偏差(σ)
終値が下側を割り込むのは、「終値が25日線から−5%以上離れた」ときです。これは#014の移動平均乖離率が−5%を下回った状態そのもの。シグナルとしては乖離率と同じもので、チャート上に線で描くか、下の窓に数字で出すかの違いしかありません。
違いが出るのは、ボリンジャーバンドと比べたときです。ボリンジャーの帯は相場が荒れると広がり、落ち着くと狭まります。エンベロープの帯は、何があっても中心線の±5%のままです。
固定の5%は、相場によって「何σ」かが変わる
そこで、5%の幅が25日間の終値の標準偏差(σ)の何倍にあたるかを毎日計算しました。約19年分(4,760日)の中央値は2.37σで、ふだんはボリンジャーの±2σより少し外側です。ところが幅は一定ではありません。もっとも狭かったのはリーマン・ショック直後の2008年10月28日で0.32σ、もっとも広かったのは2017年8月4日で14.65σでした。5%が2σより狭い日は38.7%、4σより広い日は15.2%あります。
相場の荒れ具合(20日間の日次リターンの標準偏差を年率にしたもの。以下ボラティリティ)で全期間を3等分すると、違いがはっきりします。
| 相場の荒れ具合 | 5%の幅(中央値) | −5%の外にいた日 | −5%下抜け | 20日後の平均 |
|---|---|---|---|---|
| 落ち着いた1/3(15.7%以下) | 3.18σ | 0.6% | 8回 | 1.38% |
| 中間の1/3 | 2.61σ | 5.3% | 31回 | 2.12% |
| 荒れた1/3(21.8%超) | 1.59σ | 15.7% | 59回 | 2.78% |
年ごとに見ても同じです。ボラティリティが平均11.4%と低かった2017年は、終値が−5%の外に出た日が0日。一方、平均38.9%だった2008年は69日ありました。
「±5%の外は行き過ぎ」とは言い切れません。静かな年には3σ以上も外にある「めったに届かない線」ですが、荒れた時期には1σ足らずの「普通に割り込む線」になります。2024年8月5日は乖離−20.38%でしたが、その日の5%は0.90σにすぎませんでした。
実際の日経平均で見てみる
直近500営業日で、終値が−5%の外にいた日は17日、+5%の外にいた日は82日。上側にいた日のほうがずっと多く、5月7日には乖離が+10.05%まで広がりました。上げ相場では、上側の線が「天井」になっていません。
主ルール(−5%割れで買い・25日線で売り)の売買は3回でした。2025年4月3日(終値34,736円、下側は35,254円)に買い、4月7日には終値31,136円・乖離−15.14%まで下げたものの、4月24日(35,039円)に25日線へ戻って+0.67%で手じまい。2026年3月9日(52,729円)→4月8日(56,308円)は+6.59%、7月17日(64,141円)→8月5日(66,300円)は+3.17%です。
下段を見ると、2025年1月10日には5%が5.23σと非常に遠く、急落後の4月17日には0.88σまで近づいていました。2026年10月2日は終値68,309円、25日線65,532円で乖離+4.24%。上側68,808円の手前で、5%は2.46σです。
検証①:25日線−5%割れで買い、25日線で売り
ルール:終値が25日線×0.95を下回ったら買い、25日線以上に戻ったら売り。幅を3%・4%・6%・7%・10%に変えた版と、σで幅を決めるボリンジャー逆張り(−2σ割れで買い・中心線で売り)も比べました。条件は共通の検証ルールのとおりです。幅5%の行は#014の主ルールと同じ売買なので、成績も同じになります。
| 戦略 | 最終資産 | 年率 | 最大下落率 | 取引 | 勝率 | PF | 保有率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 買い持ち | 3.93倍 | 7.3% | −61.4% | — | — | — | 100% |
| 幅3% | 1.79倍 | 3.0% | −47.6% | 83 | 76% | 1.60 | 25% |
| 幅4% | 1.79倍 | 3.1% | −47.9% | 60 | 80% | 1.75 | 20% |
| 幅5%(主ルール) | 1.61倍 | 2.5% | −44.6% | 45 | 76% | 1.73 | 16% |
| 幅6% | 2.11倍 | 3.9% | −40.9% | 37 | 78% | 2.47 | 12% |
| 幅7% | 2.27倍 | 4.3% | −40.9% | 30 | 80% | 3.14 | 10% |
| 幅10% | 2.66倍 | 5.2% | −31.7% | 15 | 87% | 8.91 | 5% |
| ボリンジャー20日 −2σ(#004) | 1.54倍 | 2.3% | −48.8% | 86 | 71% | 1.43 | 22% |
| ボリンジャー25日 −2σ | 1.55倍 | 2.3% | −47.8% | 73 | 70% | 1.46 | 22% |
幅による違いは「回数と質の交換」です。幅3%は83回売買して1回平均+0.83%、幅10%は15回だけで1回平均+7.01%。PFは1.60から8.91まで上がります。ただし幅10%でも年率は5.2%で、買い持ちの7.3%には届きません。保有率がわずか5%で、残りの95%は現金だからです。どの幅でも勝率は7〜9割と高く、「25日線まで戻る」こと自体はよく起きていました。
ボリンジャー逆張りとの差も見えます。20日・−2σは86回と取引が多い一方、PFは1.43にとどまり、前半(〜2016年9月)の年率は−1.65%でした。同じ「行き過ぎからの戻り」を狙っても、σで幅を決めると、静かな時期の小さな下げにも反応してしまうのです。
固定%は「静かな相場を休む」、ただし急落の入り口は止められない
主ルールの買い45回と、ボリンジャー逆張りの買い86回を、買った日のボラティリティで3つに分けました。
| 買った日の荒れ具合 | エンベロープ5% 回数 | 1回平均 | 勝率 | ボリンジャー 回数 | 1回平均 | 勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 落ち着いた1/3 | 4 | −0.34% | 50% | 26 | −0.08% | 58% |
| 中間の1/3 | 20 | 1.36% | 75% | 37 | 0.87% | 73% |
| 荒れた1/3 | 21 | 1.45% | 81% | 23 | 1.08% | 83% |
落ち着いた相場での逆張りは、どちらもほぼ利益になっていません。ボリンジャーはそこで26回も買い、エンベロープは4回しか買っていません。固定%の帯は、静かな時期には遠すぎて届かない。それが結果的に「休む」働きをしていたわけです。
弱点は急落です。最悪の取引は2008年9月5日(12,212円)→11月5日(9,521円)の−22.24%、次が2020年2月27日(21,948円)→4月7日(18,950円)の−13.86%でした。買った日の5%はそれぞれ2.49σ・2.39σと、ふだん並みの「遠い線」です。そこから下げが加速し、2020年3月16日には5%が0.54σまで縮みました。帯の外に出た時点では、それが普通の押し目か暴落の入り口かを区別できないのです。最大下落率−44.6%は、2007年8月9日〜2008年10月27日の下げで生まれました。
検証②:上側+5%は「反落」の目安か
エンベロープは上下対称の線なので、上側は「売り」の目安とされることがあります。終値が+5%を上抜けた日と−5%を下抜けた日の、その後のリターンを比べました。
上側の線は、反落の目安としては働いていません。むしろ勢いが続くことが多く、参考に「+5%超えで買い・25日線割れで売り」と順張りにすると、年率1.4%・最大下落率−27.7%・PF1.43(取引43回)でした。#004でボリンジャーの+2σ超えが「行き過ぎ」より「勢いの始まり」だったのと同じ傾向です。
読み解き
- 下側の線は、戻りの目安としては機能した。どの幅でも勝率は7〜9割、−5%下抜けの20日後は平均+2.46%と全日平均+0.75%を上回る。ただし取引は最多の幅3%でも83回で、年率は買い持ちに届かない。
- 固定%の良さは「静かな相場で動かないこと」。落ち着いた時期の逆張りはほぼ利益にならないが、5%の帯はそこで4回しか買わなかった。σ基準のボリンジャーは26回買い、PFは1.43にとどまった。
- 弱点は暴落の入り口を見分けられないこと。2008年は−22.24%、2020年は−13.86%の取引が出た。買った日の5%は2.49σ・2.39σとふだん並みで、帯の幅からは異変が読めなかった。幅を10%に広げると最大下落率は−31.7%まで縮むが、取引は15回しか残らない。
成績のまとめ(25日線−5%割れで買い・25日線で売り)
幅を4%・6%に変えても年率3.1%・3.9%とプラスで、後半の年率3.6%は前半1.4%を上回る。ただし取引は19年で45回と少ない。シグナルは#014の乖離率−5%と同一で、成績も同じになる。年率2.5%・最大下落率−44.6%は買い持ちの年率7.3%に大きく見劣りし、暴落の入り口で買ってしまう弱点も残る。
自分で試す(TradingView)
//@version=6
indicator("エンベロープ(25日線±5%)", overlay = true)
len = input.int(25, "期間")
pctW = input.float(5.0, "幅(%)")
mid = ta.sma(close, len)
upper = mid * (1 + pctW / 100)
lower = mid * (1 - pctW / 100)
plot(mid, "25日線", color = color.orange)
u = plot(upper, "上側", color = color.blue)
l = plot(lower, "下側", color = color.blue)
fill(u, l, color = color.new(color.blue, 92))
// 主ルール:下側割れで買い、25日線に戻ったら売り
var bool inPos = false
buy = not inPos and close < lower
sell = inPos and close >= mid
if buy
inPos := true
else if sell
inPos := false
plotshape(buy, "買い", shape.triangleup, location.belowbar, color.green, size = size.tiny)
plotshape(sell, "売り", shape.triangledown, location.abovebar, color.red, size = size.tiny)
// 5%の幅は25日σの何倍か(データウィンドウに表示)
plot(mid * pctW / 100 / ta.stdev(close, len), "5%÷σ", display = display.data_window)

