ピボットポイント:前日の値から支持線・抵抗線を引く
- 日経平均の日足では、安値がS1に届く日が45.6%もある。届いた日に終値でS1の上に戻したのは37.2%で、深さだけをそろえた「偽のS1」(37.1%)とほぼ同じ
- S1で戻した日より、S1を割って引けた日の方が5日後の平均リターンが高い(+0.21%と+0.30%)。R1ブレイクの5日後は+0.08%で、全日平均+0.19%を下回った
- 「S1に触れて終値で戻した日に買い、5日保有」は年率0.1%、PF1.05。保有4日では年率−2.6%に落ちる
ピボットは前日の値幅を「折り返した」線
ピボットポイントは、もともと取引所の立会場(フロア)のトレーダーが、その日の目安を素早く計算するために使っていた方法とされ、「フロアピボット」とも呼ばれます。使うのは前日の高値(H)・安値(L)・終値(C)の3つだけです。
R1 = 2P − 前日安値
S1 = 2P − 前日高値
R2 = P +(前日高値 − 前日安値)
S2 = P −(前日高値 − 前日安値)
Pは前日の値動きの「中心」です。R1はPから見て前日安値を上に折り返した位置、S1は前日高値を下に折り返した位置になります。R(レジスタンス)は上値の目安、S(サポート)は支えの目安とされます。
線は「近い」。届く日は珍しくない
日経平均で計算すると(前日終値比は中央値)、各水準は前日終値から思ったより近い場所にあります。前日の値幅(高値−安値)の中央値は前日終値の1.04%しかないためです。
| 水準 | 前日終値比 | 届いた日 | うち終値が上 |
|---|---|---|---|
| R2 | +1.00% | 29.5% | 63.8% |
| R1 | +0.50% | 50.0% | 65.5% |
| P | −0.01% | 68.1% | 31.2% |
| S1 | −0.52% | 45.6% | 37.2% |
| S2 | −1.04% | 27.6% | 38.1% |
| (比較)前日安値 | — | 45.8% | 36.5% |
R1・S1は、2営業日に1回ほどの割合で届く線です。「届いた」はR1・R2なら高値が線以上、P・S1・S2なら安値が線以下になった日を指します。S1に届いた2,172日のうち、終値でS1の上に戻したのは809日(37.2%)でした。残りの6割強は、S1を割ったまま引けています。
「S1で止まる確率が高い」と感じるのは、S1が近い線だからかもしれません。そこで、S1の深さ(前日終値から何%下か)を日付の間でランダムに入れ替えた「偽のS1」を200通り作りました。偽のS1も届く割合は44.1%、戻す割合は平均37.1%(35.1〜38.9%)で、本物の37.2%と変わりません。前日終値から一律0.52%下に引いた線でも37.4%でした。日足で見る限り、S1が「特別に止まりやすい線」である証拠は見つかりませんでした。前日安値(36.5%)とも差はありません。
実際の日経平均で見てみる
直近500営業日では、安値がS1に届いた日が214日、そのうち終値で戻したのは85日、割れたまま引けたのが129日でした。終値がR1を上回った「R1ブレイク」は164日です。
急落の日には、S1もS2も役に立ちません。2024年8月5日はS1が35,369円、S2が34,829円でしたが、安値は31,156円まで下げ、終値31,458円(前日比−12.40%)で引けました。2025年4月7日もS1は33,253円で、安値30,793円・終値31,136円と大きく割り込んでいます。どちらも翌営業日は終値がR1を上回る「R1ブレイク」でした(2024年8月6日は終値34,675円、2025年4月8日は33,012円)。大きく割った翌日に、大きく戻したわけです。
最近のS1戻しの例では、2026年9月14日はS1が63,376円、安値62,726円、終値63,493円でした。5営業日後の9月24日の終値は65,514円(+3.18%)です。一方、9月10日(S1 64,842円、終値65,271円)は、5営業日後の9月17日に64,136円(−1.74%)まで下げました。10月2日の4本値から計算すると、次の営業日の水準はR1 68,656円、P 68,394円、S1 68,047円です。
検証①:S1・R1に届いた後の値動き
まず売買ルールにする前に、S1・R1に届いた日の終値から見たその後のリターンを、日の種類ごとに集計しました(2007年4月13日以降)。
S1で戻した日の5日後は+0.21%で、全日平均+0.19%とほぼ同じです。翌日だけを見ると平均は−0.00%で、上がった割合は50.1%。「S1で止まった」ことは、その後の上昇を予告していませんでした。
むしろS1を割って引けた日の方が、翌日+0.06%、5日後+0.30%と高くなっています。S1割れの日は当日に平均−1.52%下げており、S1で戻した日(当日平均−0.05%)より大きく売られています。#021 窓(ギャップ)などでも見てきた、数日単位の「下げた後は戻しやすい」傾向が、ここにも出ています。
R1ブレイクは「場中」には続くが、終値では続かない
R1ブレイクの日は当日に平均+1.43%上げています。翌日に高値を更新した割合は60.4%で、全日の50.6%より高く、場中の勢いはある程度残ります。しかし翌日の終値が上がった割合は50.7%で、全日の52.8%を下回りました。5日後の平均+0.08%も全日平均以下です。200日移動平均線より下の局面では、R1ブレイクの5日後は−0.14%(539日)とマイナスでした。
検証②:S1タッチ&戻しで買い、5日保有
ルール:その日の安値がS1以下で、終値がS1より上の日の終値で買い、5営業日後の終値で売る。保有中に同じシグナルが出たら、そこから5日に延長します。比較として、S1を割って引けた日に買う版、R1ブレイクで買う版、200日移動平均線より上のときだけS1戻しで買う版も試しました。条件は共通の検証ルールのとおりです。
| 戦略(いずれも5日保有) | 最終資産 | 年率 | 最大下落率 | 取引 | 勝率 | PF | 保有率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 買い持ち | 3.93倍 | 7.3% | −61.4% | — | — | — | 100% |
| S1タッチ&戻し | 1.02倍 | 0.1% | −54.2% | 304 | 55% | 1.05 | 61% |
| S1タッチ&戻し(保有4日) | 0.60倍 | −2.6% | −68.5% | 380 | 52% | 0.95 | 53% |
| S1タッチ&戻し(保有6日) | 1.22倍 | 1.0% | −61.5% | 256 | 54% | 1.11 | 68% |
| S1割れ(終値≦S1) | 1.94倍 | 3.5% | −54.5% | 238 | 65% | 1.25 | 81% |
| R1ブレイク(終値>R1) | 1.65倍 | 2.6% | −62.0% | 213 | 44% | 1.21 | 87% |
| S1タッチ&戻し+200日線上 | 1.20倍 | 0.9% | −34.2% | 191 | 54% | 1.12 | 37% |
主ルールは304回の取引で、最終資産1.02倍、年率0.1%でした。勝率は55%ありますが、1回あたりの平均は+0.08%で、PFは1.05です。シグナルが続くと保有が延長されるため、平均保有は9.6日になりました。コストをゼロにすると年率3.27%(PF1.21)まで戻るので、往復0.2%のコストも重荷です。
年ごとの差も大きく、2008年は−32.8%、2016年は−24.2%でした。一方で2025年は+27.4%、2026年は+28.6%と、最近の上昇相場では好成績です。前半(〜2016年9月)の年率−5.1%に対し、後半は5.2%でした。比較の中ではS1割れで買う版が年率3.5%と最も良いものの、PFは1.25にとどまります。
日足での検証には限界がある
ピボットは本来、1分足や5分足を見ながらその日のうちに売買する「場中の道具」です。S1でいったん止まってから反発するのか、一気に割れるのかは、日足の4本値からはわかりません。今回の結果は「前日の値から引いた線が、日足の終値ベースで意味を持つか」を調べたもので、デイトレードでの有効性を否定するものではありません。
読み解き
- S1は「ただの線」と同じくらいしか止まらない。S1に届いた日に終値で戻した割合は37.2%。深さをランダムに入れ替えた偽のS1は37.1%、前日安値は36.5%で、差はない。前日の値幅が小さいため、S1は2日に1回近く届く「近い線」にすぎない。
- S1で戻しても、割れても、その後の値動きは「下げた後の戻り」で説明できる。5日後の平均はS1戻し+0.21%、S1割れ+0.30%。大きく下げた日ほど後で戻りやすく、支えが有効だったかどうかとは関係が薄い。
- R1ブレイクの勢いは翌日の場中まで。翌日に高値を更新した割合は60.4%と高いが、翌日の終値が上がった割合は50.7%、5日後の平均は+0.08%で全日平均を下回った。
成績のまとめ(S1タッチ&戻しで買い、5日保有)
PF1.05は損益がほぼ均衡していることを意味し、年率0.1%は買い持ち7.3%に遠く及ばない。保有を4日にすると年率−2.6%に落ちる。後半の年率5.2%は前半−5.1%から改善したが、2016年10月〜2024年12月に限ると年率0.1%で、2025年以降の上昇相場に支えられた面が大きい。S1で終値が戻ることは「支えが有効だった」サインにならず、日足の売買ルールとしては使えない。
自分で試す(TradingView)
//@version=6
indicator("ピボット(クラシック)とS1タッチ&戻し", overlay = true)
// 前日の高値・安値・終値(確定済み)を取得
[pH, pL, pC] = request.security(syminfo.tickerid, "D", [high[1], low[1], close[1]], lookahead = barmerge.lookahead_on)
p = (pH + pL + pC) / 3
r1 = 2 * p - pL
s1 = 2 * p - pH
r2 = p + (pH - pL)
s2 = p - (pH - pL)
plot(r2, "R2", color.new(color.red, 40), style = plot.style_stepline)
plot(r1, "R1", color.red, style = plot.style_stepline)
plot(p, "P", color.blue, style = plot.style_stepline)
plot(s1, "S1", color.green, style = plot.style_stepline)
plot(s2, "S2", color.new(color.green, 40), style = plot.style_stepline)
// 日足で:安値がS1以下、終値がS1より上
touchHold = timeframe.isdaily and low <= s1 and close > s1
plotshape(touchHold, "S1タッチ&戻し", shape.triangleup, location.belowbar, color.green, size = size.tiny)

